【小説】それから(夏目漱石)

私は死ぬ前にたった一人で好いから、他を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。あなたは腹の底から真面目ですか。

後期三部作と言われる「彼岸過迄」「行人」「こころ」は、これまでの作風と変わり、人間の内面(エゴイズム・孤独)を深く掘り下げた作品とされています。また、個々の短編を重ねた末に、その個々の短編が相合して一長編を構成するという独特な書き方となっています。

明治期の文学者、夏目漱石の長編小説。「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」[1914(大正3)年]。「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の3部からなる晩年の傑作。親友Kを裏切って好きな女性と結婚した罪を負う先生の行く末には絶望と死しかない。「こころ」というタイトルに包まれた明治の孤独な精神の苦悩には百年たった今も解決の道はなく、読者のこころを惹きつけてやまない。新聞連載後岩波書店から刊行のとき、装幀は漱石自身が「箱、表紙、見返し、扉及び奥附の模様及び題字、朱印、検印ともに、悉く自分で考案して自分で描いた」。(「Amazon」より)

 

  • 感想

日本一売り上げている本で2014年の時点で705万500部売り上げている(Wikipediaより)。

叔父に遺産問題で裏切られ、他人に非常に強い猜疑心を持った「先生」が、恋する同居人「静(お嬢さん)」と、その恋敵であり幼馴染でもある「K」との渦中を描いた作品です。「先生」は、「K」から「お嬢さん」に恋しているという告白を受け、「K」を出し抜いて「お嬢さん」に婚約を申込み、それを事後に知った「K」は自殺してしまいます。そのことに自責の念を感じる「先生」も数十年の時を経て、「K」と同じ自殺の道を進むことになります。

人の「こころ」の内面が手に取るようにリアルに描かれています。叔父に裏切られて人を疑い恨む「こころ」、お嬢さんに恋するものの中々想いを伝えることができない「こころ」、同居人として招いた幼馴染Kが恋敵となり嫉妬する「こころ」、Kからお嬢さんを愛していると言われ動揺する「こころ」、Kの恋が成就しないように画策して出し抜く「こころ」、Kが自殺し自責の念に悩む「こころ」、数十年後現れた「私」に徐々に気持ちを開く「こころ」、Kの後を追い自殺に辿り着く「こころ」、そして、妻である「静(お嬢さん)」を想う「こころ」。活字を読んで、まるで自分が物語の主人公になったように感情を感じ取れる作品は本書が初めてでした。加えて、本書が300ページ弱であることを忘れるほど一気に読むことができる作品であるため、もし夏目漱石の本を一作品だけ読むのであれば是非この作品を読んでもらいたいと感じるほどの作品でした。

我々は真面目に生きていることができているでしょうか。人を疑い、嫉妬し、出し抜き、素直になれない、そんな人生を送ってはいないでしょうか。そして、恋をするということは、人が自殺するほど追いつめられるものであり、恋をして悩みが生まれることは誰もが同じなのだと、自分の気持ちが楽にもなった一冊です。

  • 本書を読んで得たもの

自分に、そして他人にも、真面目に生きる。